【糖尿病とうつ病】
糖尿病と「うつ病」は、近年我が国ではともに患者人口が増えてきているだけでなく、
両者が併存しやすく、さらに互いに悪化させる関係であることが指摘されています。
今日は糖尿病と「うつ病」の関係について紹介させて頂きます。
【「うつ病」の現状】
2015年WHOの報告では、世界のうつ病人口は、3億2200万人と推計され、全世界人口の4%を超え近年増加傾向を示しています。
さらにうつ病が原因で年間約79万人が自殺しているとされ、世界的な問題として2017年の世界保健デーのテーマで取り上げられました。
我が国でも「うつ病」が含まれる気分障害の患者数は、平成11年44.1万人であったものが、平成26年111.6万人と15年間で約2.5倍となり、増加傾向が続いています。
年代別にみると男女ともに40歳代が最多で、男女別ではいずれの年代でも女性に多く認めています。
一方でこの患者調査は、実際に病院に受診している患者数であり、医療機関に受診していないうつ病の患者さんが多いと言われていることから、本当はもっと多くの患者さんが存在しているのではないかと考えられています。
【糖尿病とうつ病の関係】
糖尿病とうつ病は、どちらが先行してもそれぞれの発症リスクが高まることが報告されています。
さらにうつ病を併発した糖尿病患者さんでは、血糖コントロールが悪くなり、糖尿病に起因する神経障害、腎症、網膜症、大血管障害、性機能障害などの合併症の併発率と経過が悪化し、生活の質(QOL)が悪化するだけでなく、死亡率が約1.6倍高くなることが報告されています。
一方でうつ病に対する治療で血糖コントロールが改善することが報告されており、糖尿病患者さんでは、うつ病の発症や経過に注意し、早めに対応することでうつ病の改善を目指すことは大変重要であるといえます。
では糖尿病とうつ病の両者にどのような関係があるのか、それぞれの視点からみていきたいと思います。
【糖尿症から見た「うつ病」との関係】
糖尿病になると、食事療法や運動療法のためライフスタイルの変更や治療や生活上の自己管理を必要とされることで負担感が生じます。
また合併症の進行や低血糖に対する不安感が生じたり、仕事や趣味といった社会生活や日常生活と疾病管理の両立に悩んだり、などストレスを感じる場面が多くなります。
さらに合併症を発症した患者さんでは、合併症の症状自体によって生じる身体的な苦痛や生活への影響に加えて、自己管理に失敗してしまったという罪業感に悩んでしまうことがあり、特に神経障害や足病変、脳梗塞を発症した場合はうつ病の危険因子と考えられており、うつ病の発症に特に注意が必要です。
このように糖尿病の経過の中で様々なストレスが重なることでうつ病発症に関係しているのではないかと考えられています。
【「うつ病」から見た糖尿病との関係】
うつ病患者さんでは、慢性のストレス状態に対応すべく身体の中で視床下部–下垂体–副腎皮質系(HPA系)や交感神経系の活動が高まり血糖を上昇させる方向に働くホルモンであるコルチゾールやカテコラミンが上昇することが示されています。
また慢性のストレス状態は炎症性サイトカインをという物質を増やし、慢性炎症を生じることでインスリン抵抗性を惹起し、糖尿病の経過に影響を及ぼします。
一方でうつ病の症状として、「過食や食欲増進」は摂取カロリーの増加から肥満を来し、「不眠」は上述のHPA系や交感神経系の活動の亢進だけでなくレプチンやグレリンといった視床下部に働く摂食調節ホルモンの変化を介して食欲亢進などの食行動の変化と結びつくことで、「過眠」は運動量の低下を来すことで、それぞれ糖尿病の経過に影響します。
さらに「精神運動抑制」や「意欲の低下」があると、インスリン注射や糖尿病の薬の内服をきちんと行うことが億劫となり自己管理困難となることがあります。
またうつ病では朝方に調子が悪くなることが多く、気分が滅入って午前中の病院の予約時間に受診することができないなど受療行動にも影響を及ぼすことで糖尿病の悪化に関係します。
【糖尿病とうつ病の薬の関係について】
うつ病の治療で用いられるお薬のうち糖尿病と関係する点について紹介させて頂きます。
先ほど紹介させて頂いたSSRIという種類の薬の副作用として、特に治療開始初期に吐き気がでることがあり、食事の摂取量が低下することで低血糖リスク薬を使われている方では低血糖の危険が生じることがあります。
また反対に、ヒスタミン(H1)受容体遮断作用とセロトニン2C(5-HT2c)受容体遮断作用が強い三環系抗うつ薬であるamitriptyline、imipramine、clomipramine、四環系抗うつ薬であるmianserin、maprotilineやその他の抗うつ薬であるtrazodoneやNaSSAのmirtazapineは視床下部における食欲亢進作用を介して肥満や血糖コントロールの悪化につながることがあります。
また三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬は他に抗コリン作用の「口が渇く」という症状がでることがあり、清涼飲料水の多飲を介して「ソフトドリンクケトーシス」を生じる可能性や、高血糖症状としての「口の渇き」との区別が難しくなる場合があります。
また薬の相互作用では、抗うつ薬のもつCYP450阻害作用により糖尿病のお薬の血中濃度を高める可能性があることがあります。
また通常の抗うつ薬治療で改善しないうつ病の場合などで用いられることがある非定型抗精神病薬のaripiprazoleは、耐糖能を悪化させケトアシドーシスに至る危険があります。
糖尿病とうつ病それぞれの主治医の先生やかかりつけ薬局の薬剤師の先生に病状やお薬の内容をしっかり把握して頂くことが大切です。
【うつの背景を知る~高齢者糖尿病における「うつ病」とフレイル~】
糖尿病患者さんに限らず「うつ」の背景を知ることは治療の上でとても大切です。
たとえば、1型糖尿病の若い女性では、うつの背景として過食や自己誘発性嘔吐、拒食などの摂食障害を合併していないかを考える必要があります。
また働き盛りの年代の2型糖尿病では、不眠やうつの原因として過重労働がないかどうか、また中壮年期では子供の巣立ちや親の介護など様々なライフスタイルの変化とともに、ホルモン状態の変化、いわゆる更年期という状態も考慮する必要があります。
そして最近高齢者糖尿病において注目されているのが「フレイル」です。
高齢者糖尿病では認知機能やADL/IADL、併存疾患などを考慮して、血糖コントロール目標が検討されますがこのカテゴリー分けの背景にある概念が、「フレイル(虚弱)」で、健康な状態より余力が減りストレスに対応しにくい状態で健康と要介護状態の間の概念と定義されます。
実はうつ病ではこの「フレイル」に陥りやすく、フレイルの重症度とうつ病の重症度が関係することが報告されています。
さらに高齢者糖尿病と「うつ病」との関係では、HbA1c7.0%以上の高齢者糖尿病の患者さんでは、HbA1cが1%上昇するごとに抑うつの発症·再発が1.17倍となると報告されている一方で、低血糖を起こした高齢者糖尿病の患者さんでは「うつ病」のリスクが1.73倍となり、さらに加齢とともにこのリスクが大きくなると報告されており、高血糖だけでなく低血糖の危険性を考慮することが極めて重要です。
また高齢者糖尿病患者さんが「うつ病」を合併すると、「食欲低下」から低血糖や低栄養の危険が増すばかりでなく、「意欲低下」や「精神運動抑制」などの症状があると身体活動量も減ることで、筋肉の量や機能が低下する「サルコペニア(筋減弱症)」という状態に陥り、身体的にフレイルが進行する可能性があります。
さらに引き込もりがちとなることで社会的に孤立に陥り、社会的にもフレイルが進行する可能性があり、高齢者糖尿病では、フレイル、うつ病を予防することが大切で、高血糖だけでなく特に低血糖に配慮し予防していくことが極めて重要です。
【まとめ】
糖尿病とうつ病は互いに関係の深い病気です。
普段から糖尿病の治療だけでなく、治療にまつわる心配事や負担感について主治医や周囲の方に相談して頂き、うつ病の気配がでていないか注意し、うつ病の心配があるときは早めに主治医の先生に相談して頂くことをお勧めします。
特に高齢者糖尿病では高血糖だけでなく低血糖が「うつ病」のリスクを高め、フレイル(虚弱)につながるため注意することが大切です。
